[文学フリマ] 笑ってもいいよ。と続けてあげるには、ぼくたちにはジェントルが足りない

 誰が言ったかは覚えていない。
 誰かが言った。
 誰もが言った。
「彼が帰ってきます」
 その科白を言うために、わざわざルービックキューブを買った。
「彼が帰ってきます」
 ぼくたちは滝本竜彦を特集する冊子を作り、そ奴が来るのを待った。倒産する前の青山ブックセンターで催された最後の文学フリマだった。転叫院に彼女がいなかったころの話だ。ぼくがケミカルをきめ、Hがエロゲーを作っていたころの話だ。まったく滝本竜彦だった。ぼくたちが滝本竜彦で、滝本竜彦がぼくたちだった。
 会場のそとに、あ奴を待っている奴らが幾人もいた。
 そして、来た。
 あ奴は、来た。
 あのころの会話の続きを、ぼくは始めようとした。
ハチクロを読んでる男子をさ、ぶんなぐらねえか」
 ほれぼれするようなストレートが一閃、ぼくの頬に快音がひびいた。意識を取り戻したぼくが見たのは、まったく自然に売り子をしているそ奴の姿だった。あのころと変わらず、そ奴は信じられないくらい細身の少女だった。そ奴の百十個めのペンネームは(やっぱり!)sayukだった。
 名前の由来の本当のところは、まだ教えてくれない。
 ちぇ。