母親がぼそりとつぶやいた。「最近は、横ではなく、縦に揺れるらしいわね。リズムを取るときに」俺はエッ、訊き返した。理解はゆるやかに訪れた。要約すればつまり、こういうことだ。かつて、父母の世代は、片方でビートルズを唄い、もう片方でフォークソングを唄っていた。肩を組み、さしずめキャンプファイアーでも見つめながら、『つばさをください』だか『戦争を知らない子供たち』だか知らないけれど。残念なことに、実際のところ、それは八〇年代の俺の記憶だ。小学校の担任がフォークギターを弾くのが好きだった。おかげで俺はフォークソングが嫌いになったし、音痴にもなった。しかし実際、そのころの俺は(困ったことに)横に揺れていたのだった。縦に揺れるようになるのは原宿あたりで若者がロックしていた九〇年代になってからだ。