なつかしさ、を憶えることを俺は俺に許さなかったように思う。女の話じゃなく、街の話だ。郊外の風景に郷愁を憶えるか、という話だ。しかし、そもそも本当のところ、俺はなつかしさを憶えたのか憶えなかったのか、それすらも今やもう、判りやしない。思い出すことといえば、赤レンガだったり、長い長い階段だったり、丘の向こうの汽笛だったりして、それはけっして郊外の風景ではなかった。