素直にうらやましい、と、思う。敵を敵とすることなく、生きてくることができたならば、生きていくことができるならば、とても幸福だろう。いやはや、一九五〇年ごろに生まれた作家の本を読みあさり、彼らの世代と闘わずに生きられなかったぼくとしては。

けれども、矢作俊彦は、「自分たちは何もまちがってやしなくて、学生運動に挫折したのは挫折させた世の中のほうがやっぱりおかしいのであって、だからその30年後の日本を見てごらんよ、こんなに息苦しいだけじゃないか…」なんてことはけっして言わないとだけ指摘しておきたいと思う。言ってしまったら、それは既に矢作俊彦ではない。

矢作俊彦『ららら科學の子』41章391〜407頁から、そこだけを引用しているのは公正ではないとも思う。なぜ、その前段落を無視してしまえるのだろう)

にも関わらず、そんなふうに読んでしまえるのだとしたら、それはそんなふうに読んでしまえるあなたがたは、とても幸福なのだろう。いいなあ。