話したこと。

永遠の話。差異の反復の話。彼我の立ち位置の違いについて。ぼくたちが不思議少女を好んだとしても、彼が愛した少女は永遠を見つめていて、ぼくが愛したものは(正確には、愛していると告げたものは)、少女と少女のかたわらの少女の差異だった。あるいは、大きな不思議少女と小さな不思議少女と呼ぶべきもの。

話さなかったこと。

あたりまえだけど、ぼくだって永遠を信じようとしたことはあるよ。元オリーブ少女によって純愛と称されたものを、きっとぼくは信じていたんだろう。彼女は「今は充電期なんですよ。きっと。次の純愛のための」と言って、うふふんと笑った。舌打ちをして、ぼくは煙草を深く喫った。ねえ、だけど、永遠を信じるふりをするんだってたいへんなんだぜ。もう充分だろ。あの日の覚悟のぶんくらいの責任は、もう果たしただろ。

話したこと。

世界が強いる二者択一の話。傷ついてオトナになるか、傷つくことを恐れてオトナにならないか。なんでそのふたつの選択肢しか見ないのか、と彼は問うた。傷つかずにオトナになればいいじゃないか、と言った。社会のせいですよ、とぼくは答えた。システムのせいですよ、とぼくは答えた。だったらそれは、幸福な田舎と不幸な都会の違いかもしれないね、と彼は言った。

話さなかったこと。

ぼくは嘘吐きだった。個人的な戦術と、巨視的な戦略を分けて話すことに呵責を憶えない以上、嘘吐きでないとは言えないだろう。結局のところ、ぼくは×××××の息子だったし、都会の××な××に通っていたわけだから。

話したこと。

コミュニケーションのプロトコルの話。コミュニケーションに詳細なプロトコルを求めるなんて、オタクのやることだぜ、と彼は笑った。違いない、と、ぼくも笑った。詳細なプロトコルは、ある種のゲーム理論的な戦術に根ざしていて、それはつまり、「彼の心を手に入れる技術36。」みたいなものだ。もういいかげん、面倒じゃねえか? 彼は言った。だけど、ぼくは下りられないよ。下りないことを選択したんだもの。ぼくは小さな声で告げた。こ、こ、このグローバル主義者め。抑えた声で彼は叫んだ。

そしてループ。不思議少女の話。二者択一の話。