始めよう。教科書によると、アダム・スミスという偉いひとが「ヨーロッパ諸国中で、いちばんの商業国民であるオランダ人は、また最も義理堅く約束を守る国民である」って言ったんだってさ。オランダっていったら、風車にマリファナ、中絶と同性愛ってイメージしかないけどね(イメージの貧困!)。それはともかく、つまり、「商人の扱う取引量が大きくなるほど、貴重な取引上の評判を擁護するために誠実に行動するインセンティブがより大き」くなるんだってさ。なんのこっちゃ。え、難しいって? いやだから、マリファナはどうでもいいんだってば。このフラワーチルドレンめ。

かみくだいて言うと、「ウソをついてはいけません」とか「約束は必ず守りましょう」とか、小学校で習ったお題目は、いつでも本当とは限んないって話。そんなのあたりまえ? うん、あたりまえ。だけど、どんなときは約束を守ったほうがよくて、どんなときは約束を破ったほうが得なんだろう? その疑問の答えを、スミス先生は教えてくれてるわけ。

チャンスがたくさんある場合は、いちいち約束を守ったり守らなかったりすると、相手に信用してもらえなくなっちゃうから、だいたいにおいて約束を守ったほうが得。だけど、チャンスが一回こっきりしかない場合は、信用なんかくそくらえ、約束なんか守んないほうが得なこともあるかもしんない。

言いたいことが判ってきた? 簡単なことなんだ。もし、きみが非モテならば、つまり、出会いのチャンスが少ないならば、積極的に嘘をついたほうが得ってこと。ふたまたでもみつまたでもかけるのが正解。なんだか直感に反するように思うかもしれない。実際、モテるやつのほうが誠実でないと、メディアは宣伝しているからね。でも、本当のところはどうだろう? ここでは、きみの疑うべきは、誠実という言葉の意味だと指摘するにとどめておこう。

さて、これは、経済の教科書を書きうつして、恋愛市場について嘘八百を語るという企画の一環なんだけれど、同時にある言説への反論になっている。どの言説かは、きみ自身が考えることだ。