店員の女のコは、チーズが載せられたクラッカーを俺たちに渡し、「場所移動させちゃったりしてすみませんでした」と頭を下げた。お姐さんは「いいのよ」と手を振った。俺は店を出て、クラッカーを口に放りこんだ。角を曲がるまでの数十歩、俺たちは口をきかなかった。先に口を開いたのは、お姐さんのほうだった。「美人だったわね」俺は軽く顎を引いて言った。「派手な顔立ちの美人だったね。バタくさいというか」「そうそれ。いやぁ、心が和むわね。明るくて、気だてもよさそうだし。午後から仕事をしようっていう気になるわ」「そんなふうにほめるたりするんだね」「え、え、いや、別に、クラッカーもらったからってほめてるわけじゃないのよ。ホントだってば」