歴史が原因なのです。その歴史に触れられたら躊躇なく殴れ、と、父親の最初の教えはそれでした。なぜなら、ぼくたちの家族にとって、歴史や因襲といったものはそこから逃げ出してきたにもかかわらず、駅に向かう道に夕陽が延ばしたあの長い長い影のように追いかけつづけてくるものだったからです。けれども、ひとを殴るまえに躊躇しなさい、と、母親の最後の教えはそれでした。家を出るまえに、母親がぼくに投げかけた言葉でした。

ぼくはあなたがたがその歴史に触れることは許しません。人間なんて、ただそんなふうにしか生きられないものでしょう。