携帯電話が着信のメロディを鳴らし、ぼんやりした頭で会話に似た繰り言を口にする。電話の向こうで誰かが笑った。俺は自分が笑われたことに気づいた。ようやく覚醒し、なお眼を閉じたままで俺は、電話の向こう側の誰かの名前を呼んだ。名前を呼び、そして、名前を呼んだ。なに、と、向こう側の誰かは応えた。俺はようやく、ああ、ここは七〇年代で、しかし、七〇年代ではないんだと安心した。そして、前の日にあったことをいくつか話した。艶めいた文句はどこにも落ちていなかった。